1章 認知心理学のプロフィール
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1-1. 認知心理学
1-1-1. 基礎的な心理学
心理学を大きく2つに分ける
実践的な心理学: 直接生活に役立つような心理学
本当に役立つためにはそもそも心の働きの理解が必要
基礎的な心理学: 心の働きを解明しようとする心理学
基礎的な心理学の中心となっているのが認知心理学
1-1-2. 認知
基本的には認識と同じ意味の言葉。どちらもcognition
物事を知ること
知るためにはまず目や耳を使って外界の様子を探らなければならない
17~18世紀にかけては、哲学の認識論でも盛んに知覚の問題が論じられた。 知覚したことを覚えていたり、その意味を考えたりすることも欠かせない
認知心理学が主に研究対象としてきたのは「知」の部分
人間の知的な活動を解明することが目的
近年は「意」の部分と関連の深い意識や無意識の問題についても研究が進んできた
「情」に当たる感情についても、研究が盛んに行われるようになった
認知心理学は人間の精神活動を全体として理解しようとする「基礎的な心理学」へと脱皮しつつあると言えるかも
1-1-3. 研究テーマの例 -- 立体的な世界の知覚
奥行きは含まれていない
しかし私たちが見ている外界は立体的
この問題を解明するデモンストレーション
Bを構成している図形は同一。
1-1-4. 研究テーマの例 -- 誤った目撃証言
青森県の弘前市で大学教授の夫人が刺殺された事件
母親が犯人を目撃
裁判で「犯人そっくりです」と証言したが、事件後の調書によると「常夜灯がついていただけだったので、犯人の顔はほとんど見てなかったのです」(後藤, 1979) この事件が時効になってから真犯人が見つかった
1-2. 認知心理学の概念装置
1-2-1. 概念装置
認知心理学は人間をどのように理解しようとしているのか
どのような学問であれ、草創期には適切な概念装置は存在しない。徐々に作り上げる。
学問的な探求が始まってもなお人間との対比が使われ続けた例
親和力(affinity): 「よく似た人同士は互いに惹かれ合う」という人間観察に由来 1-2-2. 精神活動と概念装置
19世紀末に科学的な心理学が勃興し、より科学的な理解に到達しようとする努力が始まる
適切な概念装置は存在しないということが明らかになった。
それを作り出すことも非常に難しい
人間の身体の働きであれば、人工物との類比で理解できる場合もある
17世紀にイギリスの医師ハーヴェイはポンプとの類比によって心臓や弁の働きを説明 精神活動の場合は2つの理由で類比に頼ることが難しかった
脳と似たものが他には見つからなかったこと
脳をいくら観察しても心臓のような可動部がない。
どういう働きをしているのか見当をつけることもできない。
知的な精神活動の場合、人間以外にはそういうことができる存在が見当たらなかったこと
同じような機能を持っていてすでにその働き方がわかっている人工物はなかった
精神: 機械では理解不能
1-2-3. 行動主義心理学の概念装置
とはいえ、概念装置なしでは学問は成立しない。
刺戟―反応連合 という概念装置
認知心理学以前に基礎的な心理学の中心を占めていた行動主義心理学 ロシアの生理学者パブロフが発見した条件反射からの類比 犬はメトロノームの音が聞こえただけで唾液を分泌するようになった
犬は刺激と反応との間に新たな連合を形成したことになる
行動主義の心理学はこの概念装置によって経験に基づいて形成される様々な行動を説明しようとした
行動主義心理学は学習の基本的な原理について数多くの事実を明らかにした。
人間の精神活動についての理解は実際にはほとんど進まなかった
刺激-反応連合という概念装置は人間の精神活動を解き明かすための適切な概念装置ではなかったということになる
1-2-4. その他の概念装置
刺戟-反応連合という概念装置は使用せずに近くや思考などの研究を進めていた
「場」 という概念装置
ケーラーが当時物理学の世界で最先端の話題になっていた電磁場の理論に注目 この概念装置も成功には程遠かった
認知心理学誕生以前に、認知の研究に大きな足跡を残した
子供の認知発達を研究対象
しかしこの数学の群論も適切な概念装置とはならなかった
1-2-5. コンピュータの出現
電子計算機の登場
1946年にはペンシルベニア大学でENIACという巨大なコンピュータが公開された コンピュータが人間の脳と似ていることは誰の目にも明らかだった
計算という作業
人間の脳にも可動部がないが、コンピュータの方も計算をしている本体には可動部はない
脳が電気的な活動をしていることはすでにわかっていたが、コンピュータも電気的に計算をしている。
コンピュータは情報処理をしている。
人間の脳も情報処理をしているのだと考えればその働きを理解することができるのではないだろうか
1956年にマサチューセッツ工科大学(MIT)で情報科学シンポジウムを開催した
文法的に正しい英語の文を生み出す文法理論(言語学者チョムスキー) 同年、ダートマス大学「人間が行なっている知的な作業をコンピュータにやらせるには?」」
数学・工学などの多くの分野の研究者にサイモンやニューウェルも加わる
人工知能(artificial intelligence) という言葉が誕生した。 1-2-6. 情報処理パラダイム
こうした流れの中から 情報処理パラダイム(information processing paradigm) が誕生 パラダイム: 「科学研究を進めるための基本的な考え方」科学史家クーン
人間の知的な精神活動をコンピュータの情報処理になぞらえて理解しようとする考え方、研究方針
この情報処理パラダイムは結果的には大成功をもたらした
人間の知的な精神活動に関する理解は飛躍的に前進した
1-2-7. 認知心理学の誕生
心理学の領域では行動主義の心理学に変わり情報処理という概念装置を使う新しい心理学が次第に優勢になっていった。
心理学者ミラーに教えを受けたナイサーは1967年に『認知心理学』(Cognitive Psychology)と言う本を著した それまでお互いに無関係に行われていた認知に関する様々な研究を捜し集め、情報処理という観点から一つにまとめあげた。
「認知」=「感覚入力に関する情報処理」
取り上げられた研究者「自分の研究はこういう意味を持っていたのだということが初めてわかった」
認知心理学は学際的な性格を持っていた。
認知心理学の誕生と時を同じくして 認知科学(cognitive science) という学際的な領域が誕生 チョムスキーの言語理論や人工知能研究、哲学や人類学、生理学など…
認知心理学は情報工学とともにこの学際領域の中で中心的な役割
認知心理学と生理学が融合した 認知神経科学(cognitive neuroscience) という分野も生まれている 1-2-8. 適応論パラダイム
ナイサーはコーネル大学に移って情報処理パラダイムを批判する異質な心理学と出会う ナイサーの知覚の授業を小馬鹿にしていたTA
ドイツで誕生した実験心理学で、視覚の研究は真っ暗な部屋の中で光点を見つめるというもの
ギブソンは人間の視覚が環境のもつ多くの特性に反応していることに気が付いた。
視覚が環境のどのような特性に反応するのかを調べるためには真っ暗な部屋のような研究方法は適切ではない
情報処理パラダイムが人間との類比に使ったコンピュータは人間が作り上げた人工物であり、常に人間が保守点検をしなければ機能し続けることはできない
一方、人間自身は進化の過程から生まれた生物であり、自ら環境に適応うして生き延びることができる。
人間の視覚も環境に適応するための手段として進化してきた機能であり、環境の重要な特性を検知するという働きを持っているはず
コンピュータとの類比では理解できない
適応という観点を重視するギブソンの考え方はアメリカで生まれた 機能主義心理学(functionalism psychology) の伝統を受け継いでいるという面もある。 ナイサーはギブソンに共鳴するようになる
日常的な場面で人間の認知を研究していくべき
義烏蕪村の生態学的な視点に基づく研究は知覚に限られていたが、ナイサーは記憶の研究も生態学的な視点に基づいて行われるべきと主張
日常記憶(everyday memory) は記憶研究の重要な柱の一つとなった 20世紀末、進化心理学(evolutionary pscyhology) が登場してからさらに広範な展開を見せることになった。 アメリカ独自の心理学
人間の精神機能 = 環境への適応の手段
1-2-9. 進化生物学
進化生物学では生物の身体的な構造や機能、行動について環境に適応して生き延びていくために形成されてきた進化の産物として理解しようとする。
もちろん進化のプロセスは特定の目的に向かって進んでいくわけではない。
ダーウィンの進化論では無作為な自然選択というプロセスを通じて、適応に有利な形質が進化すると考える 特定の目的に合致した形質が進化することになるので結果的に見れば目的論的
1-2-10. 進化心理学
進化心理学は人間の精神機能について「特定の環境に適応するために進化してきた」という目的論的な解釈
高次の精神機能についても生得的なプログラムの働きとして説明することになる。
進化心理学によれば、人間の祖先は数百万年前から小集団の狩猟採集生活の適応問題に個別に対処するために様々な遺伝的なプログラムが進化してきた。
そうした遺伝的プログラムの働きが高次の精神機能なのだと考える。
人間の精神機能が全て遺伝的なプログラムによって直接決定されるのは行き過ぎではないか
特定の具体的な問題を考えるために遺伝的なプログラムが進化した可能性はあるが、それとは別にもっと汎用性の高い認知機能が遺伝的に進化?
適応には2種類
1-2-11. 2つのパラダイム
適応論パラダイムは当初情報処理パラダイムに対するアンチテーゼとして論じられることが多かった
実際には適応論パラダイムと情報処理パラダイムは相容れない考え方ではない。
情報処理パラダイム: How?
適応論パラダイム: Why?
1-3 授業の内容
認知心理学の全貌が大体俯瞰できるように構成されている
入力(刺戟) -> 初期認知(知覚・注意 etc.) -> 高次認知(記憶・言語・思考 etc.) -> 出力(行動)
紹介することのできない研究テーマ